『源氏物語』研究 6 [大学]
第二章 第三節 六条院が建てられた意義
六条院が完成されたのは「少女」巻の終盤に差し掛かったところであり、「八月にぞ、六条の院造」(「少女」③・二七三頁)られたとあり、季節は秋頃であった。そこはかつて六条御息所が住まわれていた土地が含まれており、「中宮の御古宮なれば、やがておはしますべし」(同頁)と斎宮の女御が六条御息所ゆかりの土地に住まう事になる。
また源氏も秋という季節には六条御息所との関わりがあり、伊勢へ下る前の野の宮に訪れたときや、斎宮の女御を託して世を去るときも秋であった。
「薄雲」巻では春秋優劣論が話題に上ったとき、斎宮の女御は源氏の問いに対して、
まして、いかが思ひ分きはべらむ。げに、いつとなきなかに、あやしと聞きし夕
こそ、はかなう消えたまひにし露のよすがにも思ひたまへられぬべけれ。
(「薄雲」③・一八二頁)
と、御息所が亡くなった秋の季節に心を寄せていることが分かる。また、源氏が紫の君に、
女御の秋に心を寄せたまへりしもあはれに、君の春の曙に心しめたまへるもこと
わりにこそあれ。時々につけたる木草の花によせても、御心とまるばかりの遊び
などしてしがなと(後略)」 (同・一八四~五頁)
と話し、六条院造営のきっかけ、また「少女」巻の斎宮の女御と紫の君との春秋優劣の和歌のやり取るが起こる所以となっている。源氏が意図した六条院の一つには、季節に即したそれぞれ源氏の女性たちの、嗜んだ風流を競わせようと考えていたのかもしれない。
その構想を源氏が考えたときに、ふと六条御息所の居所を思い浮かべたのかもしれない。斎宮の女御は六条御息所の血を受け継ぐ者であり、たった一人残された形見である。しかも、母親を恋慕する心が強く残っているから秋を好んだのであろう。それに六条御息所から遺言を託されており、恐らくは六条御息所が未練を残して世を去ったのではないだろうかと案じていたのかもしれない。とにかく、託された遺言を源氏は果たさなければならなかった。
六条京極のわたりに、中宮の御古き宮のほとりを」(「少女」巻③・二七二頁)の箇所で『湖月抄』の諸注では、まず『細流抄』に「御息所の舊跡也」((中)「乙女」巻・二八六頁)と、『花鳥余情』には「六條御息所の住み給ひし所也。其宮を六條院四面八町の中につくり入れられたる也」(同)、また『河海抄』を引いて「うつぼ物語ニ云ク、紀伊國むろの都に、神南備(カミナヒ)の種公(タネ)と云ふ長者、吹上の濱のわたりに、四面八町の内におほとのをつくりかさねてみし。相似たり」(同・二八七頁)とある。さらには、「八月にぞ、六条の院造り果ててわたりたまふ」と六条院が完成された箇所で『集成』の注釈には、「六条の院は、源融の造営した河原の院に模したものか、河原の院は六条の院とも呼ばれ、一世の源氏の造営した点も似ていると、『河海抄』はいう」(「少女」巻③・二七三頁)とある。諸注釈では六条御息所の居所であること、六条院にはモデルが少なくとも二例あることを挙げており、物語文学の継承と歴史事実のもとの着想を伺うことが出来る。
このように表向きは華やかに彩られているが、裏では鎮花祭といった、いわゆる恐れられる神や霊などの超自然的な力を具える存在に守護的な役割を果たそうとする儀式がある。これについて折口信夫氏は「ものゝけ其他」に、
此は大神・狭井兩者を祭つて、春季に浮動する惡神を防ぎ遏へようとしたもので、
三輪神の荒魂・和魂の力を借りて邪靈を鎮めようとするのだと言ふ見解もあつた。
だが大神及び狭井の神は、宮廷以前に、大和の地を持つてゐた神々であるから、春
三月櫻の花の咲き散る頃になると、神の靈が浮動して荒びたものであらう。
(『折口信夫全集第八巻』中央公論社 一九六六年 三一九~二〇頁)
と解説されている。源氏が「初音」巻や「胡蝶」巻で六条院に豪華絢爛な雅を催したのは、古来よりあった鎮花祭を執り行うことによって荒ぶる魂を鎮めようとしたのだろう。
その表現も仏教要素が含まれており、極楽浄土をこの世に実現されたかのように六条院は華やかに幕を開くのだった。このように考えていくと、夕顔の忘れ形見である玉鬘が六条院に引き取られるのもうなずく所がある。
しかし、光に満ちていた六条院もやがて影を落とすようになり、六条御息所が死霊となって紫上や女三の宮に取り憑いて源氏を苦しめる。源氏は六条御息所の遺言を何とか遵守したのだが、「若菜下」巻において死霊として出現した六条御息所は「なほみづからつらしと思ひきこえし心の執なむ、とまるものなりける」(「若菜下」巻⑤・二一八頁)と語っている。秋好中宮をお世話してもらい感謝を述べていると同時に、六条御息所が成仏できずにさまようのは、子を深く思うよりも源氏への執着が残っていると打ち明けている。死霊出現のきっかけは不鮮明であるが、冷泉天皇と秋好中宮との間に子どもがいなかったこと や、秋好中宮と明石君を守護する働きとして紫上と女三の宮を祟り、家霊としての役割を果たす 等が要因となっており、生前に辱められたことを雪ぐように源氏を苦しめているのであろう。まさに、女性の業というものがまざまざと見せつけられる描写である。
2012-02-22 03:32
nice!(21)
コメント(2)
トラックバック(0)
暁のファン募集中です☆
ヨロシクです(^^)/~~~















配偶者様はハッキリした方なのですがぁ・・・それでも、分からない・・・。
(なんでも好きにして、いいのに・・・あ!本気ですよぉ!)
「思い遣り」「寄り添い」まだ足りない?・・・その表現が難しい?
とりあえず、物の怪には、ならないように・・・頑張らないと!{単身赴任}
by hanamura (2012-02-22 22:04)
hanamuraさんへ☆
まだ独身なので分からないのですが、愛情表現は様々ですし、
自分がベストだと思うのをされたらいかがでしょうか。
しかし、いくら何でも、かつて自分が住んでた家(の一部)に愛人たちが住みついたら、
誰でも物の怪に化けて祟りたくなる…ような。
私だったら、確実にそうしているかもしれません。^^;
本当に生き生きとした(?)女性は、六条御息所に尽きますね。
女主人公の中では、けっこう共感できて好きです。(笑)
男性諸君では、夕顔か浮舟が1~2位を争うくらい人気があります。
その理由は分からなくもないですが、当時としても、やはり(真の)女性らしさがあるのだと思います。
しかし、恋愛って難しいですね…。
by 竜眼寺暁 (2012-02-23 04:13)